特集
四国お遍路スタート地点の水先案内、
頼りになります『門前一番街』
現代のロングトレイル・ハイキングブームを1000年以上前から先駆けていた日本の古道旅の代表格、四国遍路。全長1200kmを超えるその長い道の始まりは、徳島県鳴門市の霊山寺です。
初めてここを訪れ、長い道の第一歩目を踏み出すお遍路さんを支えてくれる心強い存在が、霊山寺の山門すぐ脇にある『門前一番街』。新米お遍路さんのあらゆる不安をしっかりサポートしてくれる場所です。
今年こそ、四国をめぐる長い旅をここから始めてみませんか?
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1番札所霊山寺、お遍路の旅路が始まる場所
今や世界中で大ブームのロングトレイル・ハイキング、海外諸国はもちろん日本国内でもあらたな長距離トレイルが近年次々と生まれています。
四国遍路はその先駆け中の先駆け、1200年以上前から時代を先取りしていたとも言えます。
コロナ禍以前の数年は特に外国から遥々四国遍路を歩くために訪日する「外国人お遍路さん」も急増していました。
日本人お遍路さんも外国人お遍路さんも、ほとんどの場合は「旅の始まりの場所」は第一番札所。鳴門市にある霊山寺です。
四国遍路を実際に回った人たちでなければ、88もあるお寺の全てを知っているというのはまれですが、このお寺の風景だけはテレビや雑誌の四国遍路特集でなんとなく見たことがある人が多いのではないでしょうか。
四国をたまたま訪れ、せっかくだから有名な四国遍路のお寺をいくつか見てみたい…そんな時にも自然に頭に浮かぶのは、一番目のお寺のここなのでは。
お遍路さんに一般の観光客、地元の参拝者で、いつも霊山寺はにぎやか。
境内には、天井の無数の灯籠が幻想的な本堂、600年以上前に建てられた多宝塔に、大きな錦鯉が何匹もゆうゆうと泳ぐ大きな池を前に建つ大師堂など、苔に覆われた滝とせせらぎの庭などが美しく配置され、こぢんまりとしたスペースに見どころが満載。
四国遍路に来て最初に目にするお寺は、さすが一番札所の名にふさわしい美しいお寺です。
お遍路のアレコレに、頼れる味方『門前一番街』
記念写真スポット・ナンバーワンの霊山寺山門のすぐ横、幹線道路沿いにあるのが『門前一番街』さん。
前の幹線道路を走る車からでもぱっと目を引く、りっぱな日本家屋風のたたずまい。
「花・鳥・風・月」と名付けられた4つの建物で構成された、まさに小さな門前街のような広い敷地のお店は、山門から徒歩20秒。
ここは霊山寺参拝の前でも後でも、いよいよお遍路旅を始めるその前にぜひとも立ち寄って欲しい場所なのです。
明るく開放的な店内には、お遍路用品が勢揃い、とても見やすく陳列されています。
アイテムごとにこんなに種類があるのかと驚くほど、豊富な品ぞろえです。
これだけ色々あるとどれを選べば良いのかわからない時は、迷わずお店のスタッフさんに声をかけましょう。
いずれも知識豊富なスタッフの皆さんの中でも、とても親しみやすい雰囲気の店長・藤本茂さんは門前一番街とともに25年以上、実は四国八十八ヶ所霊場会の公認先達さんでもあり、お遍路のエキスパート中のエキスパート。
■公認先達とは?
「先達とは同行二人の教えを核とする弘法大師信仰を拠りどころとして、四国を巡拝し、一人でも多くの人をこの道に誘い、それらの人々の指導者として、あるいは模範として、信仰修行に勤める方です。また、道案内やその他、巡拝道や札所寺院に関わる知識を身につけ、適切な指示や助言も行います。」(四国八十八箇所霊場会HPより)
遍路用品やお店で扱っている品々についてはもちろん、これから先の遍路道のこと、お寺のこと、あらゆる「お遍路さんの不安や疑問」に答えてくれる、本当に心強い相談相手です。
「コロナが終われば、歩き遍路さんが、日本の方も外国の方も両方、また大勢来られると思います。どうかいつでもお気軽にお立ち寄り下さい。」と、いつもニコニコ笑顔の藤本店長。
「これからお遍路さんを始める方の中には、四国遍路は有名なので観光地みたいにいろいろ便利に整備されているのかと思って来られる方もいるかもしれません。
そのため歩いていくうちに思っていたのと違うなというようなこと、例えば都会と比べると交通の便が悪いとか、宿や飲食店が少ないとか、休憩スポットやトイレが十分整備されていないとか、そういう意外と不便だと感じることが出てくるかもしれません。
でも、そこは修行だと思って頑張ってみてください。」
「だからと言って、お遍路って厳しいのかと構えてしまう必要はないですよ。四国ではお遍路さんが困っていたら誰かが必ず助けてくれますから。」
「普段あまりお寺が身近にない暮らしをしている人であれば、お坊さんってなにか特別な修行をして神聖な近寄りがたい人たちなのかなと思ったりすることもあるようですね。実はそんなことは全然なくて、お遍路のお寺で見かけたらどんどん気軽に話しかけてみたら良いと思います。」
「私達はどうしても住んでいる徳島以外のことは情報不足になってしまうので、高知や愛媛や香川については答えられないこともあります。お寺でそこの住職さんや納経所の方たちとか、道で出会った地元の方たちとか、怖がらずに声をかけていろいろ教えてもらった方が、旅がより楽しくなると思いますよ。」
広々とした『門前一番街』、カフェメニューをきれいに整えられた庭を眺めながらゆっくりと食べられるスペースもあります。
このお店でしか味わえない名物・粟の焼き餅「あわくった」は、もちろん大人気。
何度もお遍路を回っているベテランの方たちも「一番さんに来たら、これ食べないと」とやってくる定番のお菓子です。
注文してから焼き上げてくれるので、少し待ち時間が必要。先に注文して、待っている間にお遍路用品やお土産を見ているのも良いですね。
ホカホカ温かなできたてを頬張ると、優しい味わいが口に広がります。
家族やお友達にも分けてあげたくなるこの焼き餅、もちろんお持ち帰り用の箱詰めセットも用意できます。
カフェメニューで実はもう一つ隠れた名品が、和三盆ソフトクリーム。
6番札所安楽寺周辺の地域は、日本の伝統的な製法で作られた砂糖「和三盆」の産地。
今では日本全国でも限られた地域でしか和三盆は作られておらず、徳島のこの地域と香川の東部が、その数少ない産地なのです。
高級和菓子などに使われる和三盆を煮詰めて作った蜜をかけたソフトクリーム、一口食べてびっくり。
黒蜜というイメージからは予想外の、とても上品な口当たりのキャラメルクリームのような味わいで、甘みが口の中ですっと溶けて後味はむしろさっぱり。いくらでも食べられます。黒ゴマがかかっている部分を口に入れると、鳴門の名物甘くてホクホクな鳴門金時の焼き芋にも似た風味がふわりと鼻に抜けました。
また、遍路用品一式揃えるのはまだ先だけど一日だけお遍路気分を味わってみたい…という人は、ぜひレンタル遍路衣装のご利用を。着替えスペースも店内にあります。
もちろん、これからお遍路に出る前にここで一揃い準備し、その場で着替えて行くことも可能です。
これから長い旅を始める人たちだけでなく、お遍路を終わった人、今回は霊山寺のみだけの人たちにも『門前一番街』は頼りになります。
店内にはもちろん、徳島のお土産が勢揃い。
何品も少しずつ楽しみたい方のために、スタッフ厳選の品々を集めた特別詰め合わせセットがとても親切です。
次のお寺までの短い距離にも見どころはいっぱい
楽しい時間を過ごした「門前一番街」を後にして、いよいよ歩き遍路に出発。
次の札所の極楽寺までは、1kmほどの短い道のりです。
幹線道路沿いに歩くとほぼ直線であっという間に到着してしまいますが、せっかくなのであえて古い町並みが残る家々の間を抜ける昔からの遍路道を歩いてみて下さい。
また、この短い距離の間にも少し道からそれるだけで、徳島を代表する観光名所の数々に立ち寄ることもできます。
霊山寺の裏手に1km程度の場所にあるのが、徳島随一の大社「阿波一之宮」の大麻比古神社。
うっそうと茂る鎮守の森に包み込まれた広い境内には水神社や天神社など8つの末社が祀られている他、第一次大戦中に神社近傍の捕虜収容所に収容されていたドイツ軍兵士たちが建造したレンガ造りの橋などがあります。
参拝客をまず迎えてくれるのは、御神木のクスノキ。樹齢1,000年を超える大木ですが、枝葉を生き生きと大きく広げた姿は、とても若々しい優しい雰囲気です。
大麻比古神社から2番札所極楽寺への中間地点にあるのが『鳴門市ドイツ館』。道の駅「第九の里」に隣接しています。
前述した第一次大戦中のドイツ軍捕虜収容所『坂東捕虜収容所』では、ドイツ兵の人権を尊重し、できるかぎりの自主的な生活が認められていました。ドイツ兵たちは優れた技術を活かして様々な活動に取り組み、地元住民とも交流を深め、お互い打ち解け合っていました。
現代の日本の大晦日の風物詩であるベートーベンの「第九番交響曲」がアジアで初めて演奏されたのもこの収容所。演奏者はもちろんドイツ兵達でした。
ドイツ館に隣接する場所にあった収容所の跡地の一部は、当時の建物の遺構と共に公園として整備されています。
また、捕虜達は地元の人たちにドイツパンの作り方も教えており、道の駅の売店ではその時から製法を受け継いでいる老舗のパン屋さんのドイツパンが買えます。
歩き遍路の魅力がぎゅっと詰まった、最初の15km
実は徳島県内の札所23ヶ寺のなんと20ヶ寺がここ徳島東部地域に集まっています。
この最初の20ヶ寺は殆どのお寺同士の距離が近く、また列車の駅やバス停が近くにあるため徳島駅前のホテルを拠点にしてお参りしやすいという利点があります。
そのため、春秋のお遍路シーズンには、お遍路さんが歩いている姿を平日でも一日に何人も見かけます。
歩きお遍路さんの一日の歩行距離は、多くの場合15〜25km。
中には一日で30kmや40kmという猛者もいますが、通常は長い道のりを無理せず毎日歩ける20km前後が多いようです。
また、道が平坦な街の中か、山間部を通るかによっても進める距離は違います。
一番札所の霊山寺から始まって15kmを少し超える程度の距離にあるのが、四国遍路で宿坊があるお寺の中では最も番号の早いお寺になる上板町の安楽寺。
霊山寺から安楽寺まで歩いて安楽寺宿坊に泊まるのが、歩きお遍路さん一日目の行程の定番中の定番です。
また、この霊山寺〜安楽寺までの道のりは、一日だけ歩き遍路さんを体験してみたい、四国遍路に興味があるので試しにちょっと歩いてみたいのでどのルートが最適ですか?という方にも、とにかくお勧めするコース。
この区間には、四国遍路道の様々な魅力がぎゅぎゅっと凝縮されているのです。
大自然の山の中をひたすら歩き続けるロングトレイルとはまた違う、四国遍路道ならではの魅力は、道沿いの風景の多彩さにあります。
遍路道は昔ながらの農村の家々の間を抜けることもあれば、田んぼや畑のあぜ道を通ることも。延々と数キロも山道を歩くこともあれば、海沿いの道を太平洋の荒波だけを見つめて一日中歩くこともあります。
そして道沿いには、先祖代々お遍路さんを見守り続けてきた地元の人々の暮らしがすぐ隣にあり、通りすがりでも気軽に挨拶や言葉を交わす楽しみもあります。
霊山寺から安楽寺まで、鳴門市・板野町・上板町を抜ける遍路道は比較的家も多い「里の道」ですが、途中には意外にも多くの未舗装の自然の道が残っています。
いずれの自然道も平坦でアップダウンがない歩きやすい道で、里のすぐ裏山や林の中を抜けていくので、急に深い山の中に入るのは不安という人でも安心。
道沿いには古い遍路道標や石仏が残り、国の史跡指定を受けた古くからの道がそのまま残っている、まさに昔のお遍路さんたちの足跡をたどるような区間もあります。
四国遍路1,200kmの道のりの大部分は、実はこの霊山寺〜安楽寺間のような道。山道を上り下りするような険しい区間は全体の3割程度もありません。
なので、この最初の区間はまさにお遍路のお試しにはピッタリ。いきなり難関にトライして苦しすぎてやる気が折れてしまうこともありません。
霊山寺から安楽寺までの道のりを一日かけてのんびり楽しく歩いてみれば、あら不思議。
思っていたより怖くなさそう、なんだか1200kmの道のりも行けそうな気がして来ませんか?
今年こそ、ぜひ夢のお遍路旅への第一歩をここ東徳島から踏み出そう。
●門前一番街
徳島県鳴門市大麻町板東字西山田29−6 Tel : 088-689-4388
https://monzen-ichibangai.com/
●四国八十八箇所霊場一番札所 霊山寺
徳島県鳴門市大麻町板東塚鼻126 Tel : 088-689-1111
●大麻比古神社
徳島県鳴門市大麻町板東字広塚13 Tel : 088-689-1212
http://www.ooasahikojinja.jp/
●鳴門ドイツ館
徳島県鳴門市大麻町桧字東山田55-2 Tel : 088-689-0099
https://doitsukan.com/