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お寺オリジナルのガチャガチャ?
今とても楽しい四国遍路最初の宿坊・安楽寺

お寺オリジナルのガチャガチャ?
今とても楽しい四国遍路最初の宿坊・安楽寺

 上板町の安楽寺は、四国遍路の第六番札所。
 その宿坊は400年以上の長い歴史をもち、今も変わらず多くのお遍路さんが初日の疲れを癒やす「温泉のあるお寺」でもあります。
 四国遍路をより多くの人に知ってもらい、安楽寺宿坊の長い歴史を次世代にも継ぐために今、さまざまな新しい取り組みが行われています。

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安楽寺宿坊、お遍路さんを癒やし続けて400年

安楽寺宿坊、お遍路さんを癒やし続けて400年

 安楽寺は四国八十八ヶ所霊場の第六番札所。

 四国遍路を順打ち、つまり一番札所から順番通りに参拝していくと最初の「宿坊があるお寺」です。

 徒歩でのお遍路が朝一番に鳴門市の一番札所・霊山寺からスタートすると一日目の終わりに泊まるのにちょうど良い距離にあるので、初日の宿としては定番中の定番。多くが「四国遍路ではぜひ一度はお寺に泊まりたい」という憧れを抱いて来日する外国からのお遍路さんにも、もちろん大人気です。

 お遍路さんにとって体力の源は食事、安楽寺宿坊では肉・魚類も提供される
お遍路さんにとって体力の源は食事、安楽寺宿坊では肉・魚類も提供される

 外国人が日本を旅行する際にやってみたいことランキングで常に上位に入るのは「温泉に入る」ですが、安楽寺はなんとそこもカバー。
 お寺の山号「温泉山」が示す通り、四国遍路の宿坊で唯一大浴場が温泉なのです。源泉は弘法大師が発見したとの謂れがあります。

 宿坊滞在の楽しみの一つは、お寺のお勤めに参加できること。
 全国各地の宿坊では宿泊客は朝のお勤めへの参加が一般的ですが、安楽寺は夜のお勤めへの参加が特徴。朝早く出発することが多いお遍路さんの出発時間を妨げないようにとの気遣いからです。

 街のにぎやかさからは離れた場所にある安楽寺、穏やかな静けさに包まれた夜の本堂内で住職を始めとした僧侶たちの読経に唱和しお話を聞いたあとは、本堂奥にある灌頂窟へ移動。
真っ暗闇に青く光る小川が流れ、ろうそくと護摩の火の灯りだけで「くす供養」を体験します。

 四国遍路の宿坊として400年以上の長い歴史を持つ安楽寺ですが、ここ数年さらに新たな取り組みが続々と行われて注目を浴びています。

 現代ならではのアイデアを次々と生み出し実行しているのは、安楽寺副住職の畠田裕峰さん。

「四国八十八ヶ所霊場の宿坊は、今どんどん減っています。香川県や愛媛県にはもうほとんどない状態ですし、徳島県内でも今や3ヶ寺のみになってしまいました。」

 そんな状況に危機感を抱いた畠田副住職が、四国遍路や安楽寺を知ってもらうために積極的な情報発信をとインスタグラムやフェイスブックといったSNSを始めたのが4年程前でした。

安楽寺オリジナル、本堂内にガチャガチャがずらり

同じ頃、本堂に安楽寺オリジナル・ガチャガチャを置くというという斬新なアイデアが生まれました。

「今では日本全国多くのお寺さんが情報を発信していらっしゃるので、その中で目に止まるには何か変わったことをやろうと、地元の他の若い人たちと始めたのがガチャガチャの企画でした。」

 ガチャガチャの中身は全て他では手に入らない安楽寺オリジナル。作家さん達が一つずつ作っているまさに一点物なのです。
 記念すべき最初のグッズは地元の木製職人さんが手で作った木の勾玉でした。

 その後、SNS上でもガチャガチャのアイデアを一般募集し、採用したガチャガチャは終了した企画も含めてこれまで10種類ほどまで増えました。

SNSで繋がった絵師さんとコラボ、特製御朱印

 コロナ禍でお遍路さんが激減している間も、何かできないかと考え続けた畠田副住職。特製の入浴剤と御朱印を始めたのもその一つでした。

「お寺って昔からそういうふうに芸術家やその作品を広く披露するような場所でもあったと思うのです。ですから、まだあまり知られていないイラストレーターとかアーティストの方達が活躍できる場所を提供できたら良いなというのもこういった取組みの根底にあります。」

「全国の方からお力を貸していただいているのは、インスタグラムがきっかけです。
デザインができる方、絵が描ける方などから協力したいというお申し出をいただくようになったのです。」

 カラフルで美しいイラストの御朱印のデザインは、安楽寺インスタグラムのフォロワーだったアマチュアの絵師さん。その方ご自身のインスタグラムで発表されているイラストの数々を畠田副住職はとても気に入り、直接連絡をとったのです。

 御朱印のモチーフにもなっている、本堂屋根の上の鳳凰
御朱印のモチーフにもなっている、本堂屋根の上の鳳凰

「かっこいい絵もかわいい絵も両方描ける方なんです。私は最初はそれぞれ別の人が描いてるのだと思っていた程、幅広い表現技術を持っていらっしゃるので感嘆して、なんとかお願いできないかなとご連絡さしあげました。
 すると偶然にもその絵師さんは実は四国遍路をするのが夢で、いずれは回りたいと思ってらっしゃったので、こららのお願いに『非常に嬉しいです』と快諾して下さいました。」

 安楽寺のご本尊・薬師如来は十二の守護神将を従えています。十二神将は十二支と結びつけて信仰されるため、2022年のお正月限定御朱印として寅年の神将をモチーフとした御朱印も描いてもらったそうです。

 十二全ての神将をかわいく描いたイラストでまたなにかガチャガチャができないかとも考えていて、いろいろ現在進行中だとか。

「そうやって輪が段々と広がっていくんですね。」

「温泉の寺」だからできました、オリジナル入浴剤

「温泉は特に安楽寺の特徴です。『温泉のお寺』だと知っていただくために温泉っぽいもの、それならば温泉そのものだろうと入浴剤になりました。
 実は参拝に来られる方でも、安楽寺と温泉の繋がりを全く知らない方もいらっしゃいます。そこで、もし本堂で入浴剤を売っていたら、『え?なぜここで入浴剤売っているの?』みたいな感じで興味を持っていただけるのではないでしょうか。」

 安楽寺の温泉成分と同じ成分の入浴剤、定番タイプと別に香りや色が違う季節限定版もあり、販売開始と同時に大人気。
 季節限定版は出すとあっという間に売り切れてしまいます。

「特にコロナ禍ではお寺に直接参拝に来たくてもなかなかできないという方も多くいらっしゃいます。そういう方たちのためにも、御朱印も入浴剤もホームページからご予約していただけるようにしました。そういったリモートでも何か皆様にできないかと、最近はそちら方面にも力をいれています。」

手水にも季節を感じる色とりどりの仕掛けが

手水にも季節を感じる色とりどりの仕掛けが

 幸いにも安楽寺に直接来ることができる人たちは、山門を入ったすぐ右手の手水の周りにひらひらと揺れる色とりどりの手ぬぐいが目に留まります。水盤の澄んだ水の中には一面に敷き詰められたビー玉が美しくきらめきます。

 この季節に合わせてデザインや彩りを変える手ぬぐいやビー玉も、掛けかえたり取り替えて敷き詰めたりするのは畠田副住職です。

「参拝者に来ていただいた皆様に季節を感じていただきたい、少しでも喜んでいただけたらと思って。
 季節のテーマに合わせて変えていますが、1年に4種だけではなく、他に何か季節の行事があればその時にとか、まぁ思いついた時には変えたりしています。お正月の時期だったらちょっとお正月っぽくとか。
 どんなテーマや色にしようかといろいろ選ぶのも、私自身が楽しんでやってます。」

 秋の鮮やかな紅葉や、お月見を表したビー玉たち
秋の鮮やかな紅葉や、お月見を表したビー玉たち
 夏と秋の手ぬぐい。夏には風鈴もいっしょに
夏と秋の手ぬぐい。夏には風鈴もいっしょに

これからは泊まれます、風景最高の特別室

 宿坊の施設でも新たに始めたことがあります。
 これまでは限られた僧侶や大先達といった特別客だけが泊まっていた特別室に、一般客も宿泊できるようになったのです。

 安楽寺の前庭の鯉の池や、夜にはライトアップされる優美な姿の多宝塔が窓のすぐ外に見える、とても景色の良い広いお部屋を改装する計画も進行中。

「藍染の地元ですから、藍染使いが特徴的な宿坊にしたいと思っています。
 特別室も藍染を使ったお部屋にしたり、せっかく景色の良い部屋ですから温泉のお風呂を付けてお風呂からも景色が見られるようにするとかも良いですね。」

 駐車場には車中泊お遍路さん向けの、電源付きRVパーキングもできました
駐車場には車中泊お遍路さん向けの、電源付きRVパーキングもできました

 安楽寺の宿坊の歴史は古く、安土桃山時代(1500年代後半)にお遍路や旅人に宿や食事を提供し保護するため徳島藩主が「駅路寺」に指定して以来、400年以上お遍路さんを守り続けてきました。

「八十八ヶ所霊場でも最初に宿坊を始めた寺だと伝わっております。徳島のお殿様がずっと守ってきたお寺、なにより『お遍路さんのため』に宿坊を始めたお寺であるという、歴代の住職たちもそういう信念があったと思うのです。
 ほとんどのお遍路さんにとってここは1日目の終わりにたどり着く場所ですが、たぶん江戸時代からずっとそうだったと思うのです。
 だからそう簡単にはやめるわけにはいきません。」

 お遍路さんのために、なにがなんでも宿坊を続ける。
 安楽寺の歴史を継いでいく、そして更に進化し続ける試みはこれからも目が離せません。

●四国八十八ヶ所第六番札所 温泉山 安楽寺
 徳島県板野郡上板町引野字寺の西北8  Tel:088-694-2046
 https://shikoku6.or.jp/