特集

世界にひとつのお土産
阿波の職人が作る逸品

旅行に行くとお土産に悩みませんか?

友達、職場の仲間にはお菓子でいいけれど、大切な妻には何か特別なものをプレゼントしたい。とても素敵な旅だったから、自分にも何か思い出になるものが欲しいな。

そんな“特別で思い出に残る”お土産を探している人にオススメなのが、職人が一つ一つ手作りで作り出す逸品です。

今回紹介する二人の職人はまだ30代。
実際に足を運べば作業の様子を見学することもできます。
職人のこだわりや物作りにかける想いを聞くこともできます。
あなたの希望や好みに合わせて、
オーダーメイドで世界にたった一つのお土産も作ってくれます。

知られざる職人の世界に行ってみましょう。

文・仁木啓介(映像クリエイター)

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お土産 アート・工芸


最高級の革製品をすべて手作業で作り出す
革職人の店『ghoe(ゴエ)』

徳島駅から車で10分ほど。国道11号線の1本裏の通りあるのが革職人の店『ghoe』。

ガラス張りの店内を覗くと一番奥の作業場で黙々と仕事をしている職人さんの姿が。なんだかイタリアの小さな町にある革製品のお店みたいです。

 『ghoe』は国道の裏通りにある小さなお店
『ghoe』は国道の裏通りにある小さなお店
 ガラス越しに見える職人が田岡亮祐さん
ガラス越しに見える職人が田岡亮祐さん

店内に一歩足を踏み入れて僕が最初に感じたのは、
「このお店は本気だな」ということ。

丁寧にディスプレイされた財布や鞄、ベルトなどの革製品。その一つ一つに込められた職人の想いがひしひしと伝わってきます。

 革の光沢が美しい財布とコインケース
革の光沢が美しい財布とコインケース

『ghoe』のオーナー兼職人の田岡亮祐さん。まず驚いたのは田岡さんの年齢。まだ30歳という若さです。

 作業に向き合う姿勢には気迫を感じる
作業に向き合う姿勢には気迫を感じる

田岡さんは16歳の時、気にいる革財布が見つからなかったことから、自分で作ってみようと思ったそうです。大量の革を買い、知り合いに教えてもらったのですが、なかなか上手くいきません。
普通ならここで終わってしまう話なのですが、田岡さんはその後、日本各地の革職人を訪ねてまわり始めます。そして東京で出会ったのが今、師匠と仰ぐ職人でした。以来、アルバイトをしながら東京に通い技術を学んだそうです。

そして2012年、『ghoe』をオープン。まだ24歳の時でした。

 『ghoe』の商品は全て手縫いで作られる
『ghoe』の商品は全て手縫いで作られる

田岡さん最大のこだわりは手縫いです。一般的なミシン縫いに比べて手間は掛かりますが、部位ごとに最適な力加減で糸締めができること。角度のある縫いを施せることで、美しさと共に強度を高めることができるそうです。

そして、最後の仕上げは『切り目本磨き』という革の裁断面(コバ)を仕上げる技法。プロはこのコバの仕上げを見れば職人の技量が分かるといいます。

 裁断面(コバ)をヤスリで平らにする
裁断面(コバ)をヤスリで平らにする

『切り目本磨き』はコバを荒いヤスリからどんどん細かいヤスリに変えて、できるだけ平らにします。最後に布海苔(ふのり)を塗って布で磨きあげるのですが、手間をかければかけただけ美しく丈夫な仕上がりになる、まさに革職人の腕が試される作業です。

田岡さん「コバを磨く作業はいろいろコツがあるんですけど、一番大事なのは綺麗になるまでやるってことですね」

 切り目本磨きで仕上げた財布の断面(コバ)
切り目本磨きで仕上げた財布の断面(コバ)

かねてから徳島ならではの革製品を作りたいと思っていた田岡さん。徳島の伝統工芸である藍染を使って作り上げたのが『indaco(インダコ)』です。

最高級と言われるイタリア・トスカーナ産の牛革を藍で染め、独自の技術で仕上げています。

最初は黒に近い紺色をしていますが、使えば使うほどに色合いが変化し、味が出て来るそうです。

 藍染の財布。エイジングでどんな風に変わっていくのかが楽しみ
藍染の財布。エイジングでどんな風に変わっていくのかが楽しみ

田岡さん「一番テーマにしているのは、新品の時に綺麗っていうだけじゃなく、使っていてどんどん綺麗になっていく仕立て。10年後にどんな形になるかなっていうのを真剣に考えて向き合うようにしています」

お店に並んでいる商品はいつでも買えますが、オーダーメイドも可能です。
世界に一つだけ、自分とともに成長していく財布。自分へのプレゼントにいかがですか?

一度使うと手放せない包丁
伝統の技で作る『大久保鍛冶屋』

続いて紹介するのは、僕が徳島に移住してきてから付き合いのある職人。鍛冶屋さんです。僕はこの『大久保鍛冶屋』の包丁、草刈り鎌、ナタ、クワを愛用しています。

『大久保鍛冶屋』は勝浦町を走る県道16号線から旧道に入った道沿いにあります。一見すると普通の民家。入り口の左にあるのが商品を並べているお店です。

 勝浦町にある『大久保鍛冶屋』。左がお店。右の建物が工場になっている
勝浦町にある『大久保鍛冶屋』。左がお店。右の建物が工場になっている

最初に工場を訪れた時は衝撃でした。
「まだこんな鍛冶屋があるんだ」
まるで昔話の世界にタイムスリップしたような錯覚を感じました。

薄暗い室内には土で塗り固められた2つの炉があり、コークスが真っ赤に燃えています。職人は炉の前に掘り下げられた穴に入り、鉄を熱しては叩き、少しずつ刃物の形を作っていきます。

 昔ながらの技法で包丁や農具を作っている
昔ながらの技法で包丁や農具を作っている

『大久保鍛冶屋』はこの地で100年続く野鍛治(のかじ)です。野鍛治とは包丁の他に鎌やクワなどの農具や山仕事の道具などを作る職人。昔は農村に必ず一軒はあったそうです。しかし昭和30年代以降、農業の機械化や安価な大量生産の刃物が流通するようになり、その数は激減します。

三代目の大久保喜正さんは周囲の鍛冶屋が次々にやめていく中、逆にこれはチャンスだと思ったそうです。

それは野鍛治という仕事が、昔から一人一人の客に合わせて商品を作ってきたから。畑は場所によって土も傾斜も違う。使う人の体格も体力も様々。そんな違いに合わせてクワの角度を変えたり、刃の厚みを変えたり。手作りの製品には既製品では真似できない使いやすさがあるのです。

その仕事ぶりが認められ、喜正さんは昨年、厚生労働省が表彰する「現代の名工」に選ばれました。

 三代目の大久保喜正さん。2018年「現代の名工」に選ばれた
三代目の大久保喜正さん。2018年「現代の名工」に選ばれた

その後を継ぐのが長男の竜一さんです。高校を卒業して鍛冶屋になり、すでに17年。

刃物は柔らかい鉄の胴体に硬い鋼(ハガネ)の刃を挟んで作ります。難しいのは温度調整。温度が低すぎては鉄と鋼がくっつきません。温度が高すぎると砕けてバラバラになってしまいます。その加減を見極めながら、熱しては叩く作業を繰り返し、少しずつ形に仕上げていきます。

竜一さんは包丁を作れるようになるまで、10年掛かったそうです。

 包丁を作る四代目の竜一さん
包丁を作る四代目の竜一さん

竜一さんに製品のこだわりを伺いました。

竜一さん「バランスですね。人が作ると必要なところに肉(厚み)を残せたり、必要のない肉を抜けたり。ずっと微調整しながら作っているので、重みはあるんですけど、実際に持つと軽く感じる。手で作るとこのバランスがコントロールできます」

 包丁だけで何種類もある。オーダーも可能
包丁だけで何種類もある。オーダーも可能

包丁一つをとっても種類は様々。お客様の様々な要望に合わせて作るので、どれくらいの種類を作ったかはわからないと言います。

県外からわざわざ足を運ぶお客さんも多いそうです。地域が変わると道具の形も変わるので、見たこともない包丁や農具を作ることもあるそうです。

お店に在庫があれば、その場で購入することも可能です。もちろんオーダーメイドも大歓迎。

 切れ味は抜群。プロの料理人も愛用している
切れ味は抜群。プロの料理人も愛用している

最後に竜一さんに包丁でトマトを切ってもらいました。

竜一さん「包丁作るのはプロでも、切るのはプロやないからね」

と言いながらも見事な薄切りに。『大久保鍛冶屋』の包丁はどれもプロの料理人も愛用する最高品質。一般的に扱いが難しいと思われがちな鉄の包丁ですが、

竜一さん「基本は洗ってしっかり水分を拭き取るだけ。更に研ぎ方を覚えれば、プロの使う切れ味が自分でキープできますよ」

お店に行けば包丁の研ぎ方も丁寧に教えてくれます。刃こぼれしても修理してくれるので、刃がなくなるまで使い続けることができる一生モノです。

包丁の切れ味一つで料理の味は変わります。切れ味抜群の『大久保鍛冶屋』の包丁。徳島のお土産として、奥様にプレゼントしてみてはいかがでしょうか?

Information

ghoe
徳島県徳島市助任橋3−10
TEL:088−635−8666
営業時間:12:00–20:00(火曜定休)
http://ghoe.jp

大久保鍛冶屋
徳島県勝浦郡勝浦町大字三渓字定岡107–2
TEL:0885–42–2144 
営業時間:8:00〜17:00(日曜定休)
http://www.shokokai.or.jp/36/3630110026/index.htm

世界にひとつのお土産
阿波の職人が作る逸品 記者

Text 仁木啓介
兵庫県出身。1967年生まれ。東京でテレビ番組のディレクターとしてドキュメンタリーやドラマを制作。MBS『世界ウルルン滞在記』では世界各地の秘境を巡る。取材で訪れた徳島県上勝町に一目惚れして2012年に移住。映像制作とバー、グランピングの経営をする(株)上勝開拓団を起業。趣味は里山歩き。