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「アフターコロナの地域活性化はロングトレイル」
日本ロングトレイル協会・中村代表理事特別講演

「アフターコロナの地域活性化はロングトレイル」
日本ロングトレイル協会・中村代表理事特別講演

『HIKE! TOKUHSHIMA』プロジェクトは、イーストとくしま観光推進機構がWith/Afterコロナ時代において、世界のツーリズム史上を牽引するだろうと注目が高まっている「アドベンチャー・ツーリズム」に対応した取り組みを推進する一環として始まりました。
2021年3月22日に開催した令和2年度成果報告会では、設立3周年の節目を迎えこれまでの事業報告のほか、基調講演では『HIKE!TOKUSHIMA』関連イベントの幕開けにこれ以上ふさわしい方はないと特定非営利活動法人日本ロングトレイル協会の中村達代表理事をお招きしました。
中村先生の特別講演、「アフターコロナの地域活性化はロングトレイル」。その一部を抜粋してご紹介します。

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関西からの近さにびっくり。お遍路文化や眉山からの眺めに感動

関西からの近さにびっくり。お遍路文化や眉山からの眺めに感動 講演の様子(2021年3月22日)
講演の様子(2021年3月22日)

徳島県には実は初めてお邪魔しました。私は京都出身で、今は滋賀県に住んでいます。だから講演のお話を頂いた時に最初は徳島県って遠いところだと思ったのですが、車で来たら2時間半ぐらいしかかかりませんでした。もちろんちゃんと制限速度で走ってきて、危険な運転はしてないですよ。意外と近いなとちょっとびっくりしました。そういえば、関西では天気予報に徳島が入っているんです。ああ、そうか徳島は関西圏でもあるんだなと改めて思いました。

本当は徳島をあちこち歩いてみたかったのですが、年度末の忙しい時で時間がとれませんでした。ただ、昨日の午前中に着き、お遍路はまだ一回も行ったことがないので、せっかくだから1番札所から5番札所まで行かせてもらいました。そして今日は、この報告会の前に少しでも徳島をもっと見たいと思って、ロープウェイですぐなので眉山に行ってきました。今回は街の近くしか行けてなかったのですが、それでもああこれが徳島なんだと感じ入りながら、あちこちの景色を楽しませていただきました。

 眉山から眺める徳島市街
眉山から眺める徳島市街

四国には何回か来たことがあります。一度目は高知県と道後温泉に行きました。次は愛媛大学でアウトドアズや地域の再生、トレイルについてお話をしました。講義には250人もの学生が来られて驚きました。
「え?愛媛県でトレイルをつくるような話などあったのかな」と思ったのですが、愛媛にはもちろん立派な山々があって「トレイルをつくりたい」という話も、実はその時すでにあったようです。すでに「愛媛トレイル」を提唱してガイドブックもつくられています。ただ、そこでその地域の首長さんが交代され、前任者の事業は一旦すべて白紙になり、トレイルの話もお蔵入りになってしまったようです。こうした話は全国的にはいくらでもあります。ちょっと余談ですが、トレイルをつくりますという場合、多くのケースで幾つもの自治体をまたがるルートになります。でも隣の自治体同士でライバル意識があったり、隣の県とも競争していたりすることもあるようです。例えば、ある200km近いロングトレイルができた時のことですが、そのトレイルは数県にまたがっていて、そのうちの一つの県が隣の県について、戦国時代の武将の名前をあげて「だからいやだ」と。え?なんの関係があるのと思うでしょう?また、同じ県内でもどこそこの自治体より、あっちの自治体の方がエライとか、地元しかわからない地域の事情などがあるようです。そんなこともあって、トレイルが通る自治体すべてをまとめあげて、トレイルをつくり上げるまで5年かかったという話もあります。日本全国どこにでもこのような外から見たらわからないような自治体同士の微妙な関係があって、そういうことも考慮にいれて試行錯誤しながらトレイルをつくっていくというのも、トレイルつくりの面白さかも知れません。

ロングトレイルとは何か?

ロングトレイルとは何か? 日本最長のトレイル、みちのく潮風トレイル
日本最長のトレイル、みちのく潮風トレイル

四国には有名なお遍路というのがあって、私はこのお遍路道は最高のロングトレイルだと思うのです。お遍路道のような「信仰の道」には「物語」がたくさんあります。
去年の秋にNHKのラジオ番組で「ロングトレイルってなんだ?」という基本的な質問をされました。答えは「長い道です」。ではどれだけの長さだという疑問が出ます。いろいろ調べてみると、「ロングトレイル」と言いだしたのは、1900年代の初め頃、アメリカのバーモント州の高校の校長先生が、州内の高い山を全部つないだらおもしろい。そして、この山々を繋いだ道をロングトレイルと名付けたのが最初と言われています。
日本ロングトレイル協会はNPO(非営利団体)で、公益財団法人の安藤財団の全面支援を受けて運営しています。実はスタッフ全員が無給で、ボランティアでやっています。
英語としては「Long Distance Trail」が正しいと思うのですが、日本では「ロングトレイル」と言っています。この名称ですが、万が一この名称を独占して商売してやろうみたいなのが出てこないように、商標権を取りました。ただ、「ロングトレイル」という名称の使用は、そもそも商標権を取った動機はロングトレイルを広めるためです。誰かに独占されることなく、皆さんに自由に使ってもらうために、私達が商標権を取得してだれでも使えるようにしました。だから自由に使ってください。制限はありません。

さて、「ロングトレイルとは何か」という質問に戻りますが、第一は「山を旅する道」ということです。距離の定義はありませんが、ずっと歩き続けて3日以上はかかるぐらいの長さが、ロングトレイルという感じです。そして、このトレイルは自然が豊かなルートであること。春夏秋冬歩くことができるトレイルであるこというのが理想です。しかし、実際は日本中に数多く存在するロングトレイルの半数ほどは、冬には雪に閉ざされて歩けません。通年型トレイルというのはなかなかなくて、だいたい6月から11月ぐらいがシーズンです。それを考えると、四国のトレイルの大部分は通年歩くことができるので、とても素晴らしいと思います。

 日本ロングトレイル協会に加盟しているロングトレイル(提供:日本ロングトレイル協会)
日本ロングトレイル協会に加盟しているロングトレイル(提供:日本ロングトレイル協会)

日本ロングトレイル協会に所属しているロングトレイルを地図上に示すと、既にこんなにあるのかと驚くかもしれませんが、実は他にも現在トレイル整備中のところがたくさんあります。例えば、福井県は福井トレイルを整備中と聞いています。そして世界遺産富士山をぐるりと一周する200kmのトレイルは、富士山の麓を拠点とするトレイルクラブが中心になって整備しています。富士山に登る人の数はだいたい年間20万人ですが、富士山に登る人と、富士山をぐるりと回るトレイルを歩く人とでは、属性が違うと思います。富士山に登る人は登って下りてそれで終わりですが、この富士山麓トレイルを歩く人は、何日間もその山麓地域に滞在することになります。他にも茨城県北部の約300kmのトレイル。北海道では札幌一周トレイルや阿寒湖や摩周湖の周辺でもトレイルの計画など、とても全部挙げきれないほどです。

 日本のロングトレイルの草分け的存在、信越トレイル
日本のロングトレイルの草分け的存在、信越トレイル

今まさに急成長中の、日本のアウトドアズ

今まさに急成長中の、日本のアウトドアズ 四国遍路でも外国人が近年急増。服装やまわり方のスタイルも多様化している
四国遍路でも外国人が近年急増。服装やまわり方のスタイルも多様化している

今、日本のアウトドアズで一番人気なのはキャンプです。キャンプ用品が、多いところでは去年や一昨年の1.5倍か2倍近く売れています。スポーツアパレルという分野では、野球やサッカー、テニスや水泳などすべてのスポーツの中で、去年はアウトドアウェアが売り上げのトップになりました。2位が学校の体操服や皆さんが普段着ているようなトレーニングウェアです。そして3位がゴルフ。
10年前は、アウトドアウェアはずっと下の8位か9位程度でした。ところが去年はトップです。それだけ需要が増えたんですね。
今から25年くらい前にアメリカからアウトドアウェアのメーカーの人たちが日本に視察にきて、私が案内役を務めたことがあります。その時彼らは、「ああ、日本のアウトドアっていうのはバーベキューのことなんだな、掘り起こせる市場はこれからだ」と言って帰りました。その当時を思うと、今の日本は随分変わってきたようです。
昨年からのコロナ禍で、三密を避けて、環境も良くて、仲間や家族と安全に過ごせるとなると、やっぱり自然の中と、みんなが思います。だからアウトドアやキャンプが増えているのでしょう。これは日本だけではなくて世界中で同じような状況で、特に欧米とか先進国は顕著です。観光でもアウトドア志向は同様に高まっていて、木曽の中山道にはコロナ前の一昨年、国内外合わせて6万人近くの観光客が来たそうです。そのうちの3万7千人は外国人観光客といわれています。その3万7千人の半分以上がヨーロッパからで、あと多いのはアメリカ、アジアとオーストラリアからだそうです。

日本の「登山人口」は、10年前はおよそ1千万人でしたが今は650万人程度です。そして日本のアウトドア人口全体では、散歩、ウォーキング、ハイキング、キャンピングなどを入れると、3000万人ぐらいだと言われています。アメリカのアウトドア人口は5000万人程度と推定されています。
しかし、大きく違うのは、日本はアウトドア人口3000万人中で登山人口が650万人もいるのですが、アメリカの場合は300万人いません。その違いは、アメリカやヨーロッパでは「登山」というのは雪と岩の山をアイゼンやピッケルで登るクライミングが「登山」とされています。標高が高くても雪のない時期に、特別な装備なしで山を歩くのはすべて「ハイキング」です。日本アルプスの山々もコロナ禍までは、大勢の外国人が歩いていました。彼らにとっては、北アルプスや南アルプスは、最高のトレイルです。その素晴らしい日本の山々の「トレイルを歩く」ために、海外から日本に訪れていました。

 ロングトレイル協会主催の「ロングトレイルシンポジウム」の様子(提供:日本ロングトレイル協会)
ロングトレイル協会主催の「ロングトレイルシンポジウム」の様子(提供:日本ロングトレイル協会)

僕が初めてロングトレイルという存在を知ったのは、1995年です。仕事でアメリカ東海岸に行った時に、米国のガイドたちとニューハンプシャー州の山々を登りました。そこで「アパラチアン・トレイル」という米国を代表する3500kmのロングトレイルの存在を知りました。
米国のロングトレイルで、小さな子どもを3人も連れた家族に会いました。彼らはもう1週間もトレイルを歩いているということでした。学校はどうしているのかと尋ねたら、親が教えるなどの条件が整い、先生の許可さえあれば、トレイルを歩くためであっても休んでもいいと言っていました。そのためか家族でロングトレイルを数日間かけて歩いている人たちをよく見かけます。
私はいつも、トレイルは観光や地域活性化だけを考えてつくるのはダメだと常々言っています。子どもたちが歩かないようなトレイルは未来に続かないと思っています。

「ジャパントレイル」構想。日本中をつなげるトレイルを目指して。

いま、「ジャパントレイル」という構想を練っています。
昔話になりますが、今から50年以上前、1969年に初めてヒマラヤのカラコルム山域に行きました。途中のペシャーワルという街で、現地のスタッフが僕たちが立っている道を指差して、「おまえ、この道はなにか知ってるか?」と言いました。この道が「シルクロードだぞ」と。この道が東は中国に行って、西はヨーロッパにつながっている。そこに自分は立っているのだ。とても大きな衝撃を受けました。その時、「道」というのは自分の足元から世界に繋がっている、そういうものなのだ。たぶんその時に、どこか頭の隅にインプットされたのだと思います。

 (提供:日本ロングトレイル協会)
(提供:日本ロングトレイル協会)

いま、日本にはロングトレイルが既に数多く存在していて、これからもどんどん増えていく。そのトレイルが全部繋がっていればおもしろいと思ったのです。そして特に、子どもたちのため。子どもたちがトレイルに立った時に、この道をたどれば九州の南端や、北海道の北の端にまで繋がっているとわかれば、日本列島を実感してもらえるではないか。子どもたちもその位置からその先に繋がる日本各地に興味が出て、もっと知りたい、わかりたいと思うのではないか。そんなところからジャパントレイルの構想が生まれました。
いまのところは、ロングトレイル協会に加入しているロングトレイルを繋いだラインで、暫定ルートをつくっています。もちろん、今後も新規で参加したいというトレイルが名乗りを上げてくれれば、変更はまだまだあると思います。徳島県も、まだ今はトレイルができていなくても、たとえできるまでに長い時間がかかるとしても、これからトレイルをつくっていきたいというのであれば、ぜひ参画していただきたいと思います。

◆「HIKE! TOKUSHIMA」パンフレットのダウンロードは ↓↓↓ から。
  https://www.east-tokushima.jp/brochure/