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この「人」に、会いに行こう! in 上勝 vol.5 脇田征幸さん

この「人」に、会いに行こう! in 上勝 vol.5 脇田征幸さん

日本で自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に行った徳島県・上勝町。
生ゴミなどは各家庭でコンポストを利用。その他のゴミは住民自ら町内のゼロ・ウェイストセンターに持ち込んで45分別することで、リサイクル率は80%を超えており、住民主導のサステナブルな取り組みが国内外から注目されています。

でも、上勝町は決してゼロ・ウェイスト「だけ」の町ではありません。町の自然や文化を存分に感じ、楽しむことができる場所や体験、ツアーなどが多く存在しています。そこで鍵になるのは上勝の「人」。上勝の活力となり、地域を動かす人たちを紹介します。

文・板東悠希(ガイド/全国通訳案内士)


Vol.5で紹介するのは、『月ヶ谷温泉』を運営する株式会社かみかついっきゅうの副社長、脇田征幸さん。自ら月ヶ谷温泉にて日々接客対応を行い、「山犬嶽健康ウォーキング」のガイドなども務める頼もしい存在だ。2023年には「上勝らしさ」を打ち出した新しいタイプの部屋も登場した月ヶ谷温泉、その取り組みについて尋ねた。

高校を卒業してからかれこれ25年、月ヶ谷温泉ひとすじで働いている脇田さん。株式会社かみかついっきゅうの副社長に就任して数年が経つが、自ら接客対応を積極的に行い、最前線で活躍している。

「私は上勝町の隣町、勝浦町の出身なんです。子どものころは星の岩屋あたりの山は自分の庭という感覚で遊んでいましたね。就職した当時は、まだ上勝町がゼロ・ウェイスト宣言を行う前。でも、葉っぱを全国に販売する『いろどり』*1のビジネスで注目を集めているという話を知っていたので、ここで働く前から『なんだか隣町が面白そうだな…』と思っていました」

脇田さんは就職した当初から、月ヶ谷温泉だけでなく春と夏は繁忙期となるキャンプ場*2でも運営・接客に携わってきた。今までの月ヶ谷温泉の取り組みで脇田さんの印象に残っているのが、2005~2012年ごろ にから薬草料理の提供や薬草・伝統郷土料理教室を行った経験。「食と健康」を前面に打ち出し、地産地消にもこだわって開催したという。

「薬草を使った料理というのは当時ユニークな取り組みだったなと思います。『薬草カレー』なんかも出してましたね。でも食べるだけじゃなくて、運動もしっかりして、温泉に入って…と、体の内からも外からも健康に、というのをコンセプトにイベントを行っていました」

「食と健康」へのこだわりは、2018年、大手メーカーのサンスターと、徳島県、上勝町が共同で開発したヘルスツーリズム『健康道場ツアー~阿波遍路と葉っぱのまち 徳島・上勝コース』へとつながる。苔が美しい上勝町の山犬嶽のハイキングやお遍路ウォーキングと、上勝町の旬の野菜を使った料理などを組み合わせたツアーを販売。月ヶ谷温泉は、この「食」の部分を特に支えた。サンスターの管理栄養士の指導のもと、低カロリーに抑えながらも見た目もボリュームも嬉しいメニューを考えたのだそう。

「ヘルスツーリズムをきっかけにスタートしたのが山犬嶽を活用したツアーです。ヨガストレッチ体験も盛り込み「山犬嶽健康ウォーキング」として現在も継続してコンスタントに催行しています。山犬嶽は苔の森が美しい山で、その幻想的な風景を見るために訪れる人がたくさんいらっしゃいます。登山経験がない初心者の人でも、ゆっくりのんびり登れるところも人気ですね」

月ヶ谷温泉でのランチと入浴もセットになっている、充実のツアー。脇田さんが参加者を先導するガイドになることも多々あるそうだ。

「上勝のおじいちゃんやおばあちゃんたちは、山犬嶽が苔の名所になってたくさん人が来ているのが信じられないという感じみたいですよ(笑)。でも、山犬嶽は地元の人たちの協力によってきれいに整備されていて、本当に美しい景色が広がっているところです。そこに行かないのはもったいないですから」

ほかにも、上勝の名を全国にとどろかせる葉っぱ(つまもの)ビジネス「いろどり」の体験を盛り込んだディナー(宿泊者限定)も提供している。ランチタイムに合わせて体験することも事前に相談すれば対応できるそうだ。

「いろどり」はどういうビジネスなのか、また、上勝町内のいろどり農家さんがどのような葉っぱを出荷しているかなどの説明を聞きながら、月ヶ谷温泉の敷地内にある「いろどり山」を散策。つまものとして人気の南天の葉っぱなどを自分で摘み取ってみたり、食事のお膳やお皿に色とりどりの葉っぱをデコレーションしたりして、「いろどり」の美しさを知ることができるユニークな体験となっている。何より、商品として出荷される葉っぱと、自分の取ってきた葉っぱを見比べてみると、同じ植物の葉っぱとは思えない美しさの違いに驚き、「いろどり」ビジネスの奥深さを知ることができる。

もう一つ、宿の新しい取り組みとして「上勝ルーム」が2023年に誕生した。

「今年春まで上勝町で地域おこし協力隊の一員として月ヶ谷温泉で勤務していた大串絵里奈さんが『ゼロ・ウェイストをはじめ、上勝らしさを楽しんでもらえる部屋をつくりたい』という想いから企画して実現した部屋です。インテリアや設え、アメニティなどをブラッシュアップし、地元の杉材で作ったトラッシュボックスや、着物の帯をアップサイクルして作ったラゲージ(荷物)ラック、間伐された杉材から作られた糸からできるKINOFを藍染したタペストリーなど、上勝らしさと同時に上質な雰囲気が味わえる部屋に仕上がったと思います」

また、宿の客室のアメニティとして、プラスティック製のものから歯ブラシと櫛は竹製のものに代え、今春から全室に導入した。

「もちろんアメニティはお客様ご自身が持参してくださるのが一番理想です。ただ、月ヶ谷温泉を利用されるお客様はシニア世代の方も多く、手ぶらでいらっしゃるお客様が多いのが現実。まだまだゼロ・ウェイストを知らないという方多いため、少しずつこういった取り組みで、上勝のゼロ・ウェイストの活動やサステナビリティを発信していくことが、月ヶ谷温泉としての使命だとも思っています」

そのほかにも、広々とした来春のグランドオープンを控えるインドア・グランピングルーム「TSUKI‐AKARI(月あかり)」(仮称)も10月からプレオープン。これまでにない、ゆったりとしたアウトドアテイストのスペースは、都会の喧騒を忘れて非日常を味わえる空間に仕上がっている。

「開放的なテラスエリアでは勝浦川を眺めたり、星空観測などもできます。天候に左右されないインドア・グランピング施設なので、小さなお子様のいるご家族や仲間との特別な思い出作りにご利用いただければ。2024年3月までは少しお得なプレオープン価格で宿泊できますので、多くの方にこちらの部屋でお過ごしいただきたいですね」

脇田さんのもとで多くの体験や新しい客室が生まれている月ヶ谷温泉。訪れる人には温泉に浸かって疲れを癒すだけでなく、さまざまな「上勝らしさ」をぜひ味わってほしい。

月ヶ谷温泉
徳島県勝浦郡上勝町大字福原字平間71-1
電話:0885-46-0203
温泉営業時間:10:00〜20:00最終受付
https://www.e-kamikatsu.jp/

■山犬嶽健康ウォーキング
https://yamainudake.com/

インドア・グランピングルーム
大人1泊朝食付き(プレオープン特別割引料金)8,800円/人~
定員4名(最大6名まで可能)/2名より受付
トイレあり・バス(風呂)なし
*1名分の料金は宿泊人数・シーズンによって異なる
*別途入湯税100円/人
*追加オプションで夕食あり

*1いろどり:「葉っぱビジネス」ともいわれる、日本料理を美しく彩る「つまもの」を栽培・出荷・販売する農業ビジネスのこと。1986年より、上勝町の山々にある葉っぱを販売しようと、ブランド名『彩(いろどり)としてスタートした。上勝町の約150軒の農家が参加。年商は約2億円。この「いろどり」を題材にした映画『人生、いろどり』が2012年に公開された。
https://irodori.co.jp/

*2 月ヶ谷温泉村キャンプ場:勝浦川をはさんで、月ヶ谷温泉の対岸にあるキャンプ場は、かつて月ヶ谷温泉を運営する株式会社かみかついっきゅうが管理・運営していた。いまは『パンゲアフィールド』として、合同会社パンゲアが経営を担う。
http://www.k-pangaea.com/