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“藍”の町ならではの逸品
藍色に染められた「勝瑞城の御城印」

“藍”の町ならではの逸品
藍色に染められた「勝瑞城の御城印」

近年、神社や寺院で参拝者に押印される御朱印(ごしゅいん)がブームとなっていますが、実は「御城印(ごじょういん)」なるものがあるのを知っていますか?
御城印は半紙に城名やゆかりある城主の家紋や花押などの印を押したもので、登城の記念にいただけます。
日本各地で作られていて、収集のために全国を回るファンもいる御城印。徳島県では一宮城(徳島市)でも発行されています。
今年の春、新たに徳島県内で御城印が作られたことを聞き、やってきたのが藍住町。
一体どんな御城印ができたのか? その経緯と込められた思いについて御城印作りに携わる皆さんにお話を聞きました。

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藍住町の魅力を一枚の“御城印”にこめて

そもそも勝瑞城とはどんなお城なのでしょう?

勝瑞城は戦国時代にその名を轟かせた阿波三好氏の居館と推定されています。
平成6年から発掘調査がはじまり、出土する遺物などの保存状態が一級品であったことから貴重な歴史文化遺産として平成13年に国史跡に指定されることとなりました。

 ▲勝瑞城跡に建つ「勝瑞義冢碑(しょうずいぎちょうひ)」。阿波三好氏の盛衰が漢文で書き連ねられています(藍住町指定有形文化財)。
▲勝瑞城跡に建つ「勝瑞義冢碑(しょうずいぎちょうひ)」。阿波三好氏の盛衰が漢文で書き連ねられています(藍住町指定有形文化財)。
 ▲勝瑞城跡。三好氏歴代のお墓とされる五輪塔などが残されています。
▲勝瑞城跡。三好氏歴代のお墓とされる五輪塔などが残されています。
 ▲こちらは勝瑞館跡。かつて栄えた武家館があったとは思えないほど、穏やかな公園のような芝生広場。兵どもが夢の跡…。
▲こちらは勝瑞館跡。かつて栄えた武家館があったとは思えないほど、穏やかな公園のような芝生広場。兵どもが夢の跡…。
 ▲勝瑞城館跡の周辺案内図。これを見てからかつての面影を探してみるのも面白いかもしれません。
▲勝瑞城館跡の周辺案内図。これを見てからかつての面影を探してみるのも面白いかもしれません。
 ▲館跡に新しく建てられた「史跡勝瑞城館跡展示室」には、出土した漆器・磁器・瓦などが展示されています。16世紀の前葉から後葉にかけての阿波の社会情勢の変化が大いに反映されている数々は見応え抜群です。
▲館跡に新しく建てられた「史跡勝瑞城館跡展示室」には、出土した漆器・磁器・瓦などが展示されています。16世紀の前葉から後葉にかけての阿波の社会情勢の変化が大いに反映されている数々は見応え抜群です。

財団法人日本城郭協会が全国各地の名城探訪の手がかりとして2006年に定めた『日本100名城』。2017年、その続編となる『続日本100名城』の中に勝瑞城が制定されました。

 ▲『続日本100名城』に制定されたお城に設置しているスタンプ。コロナ前には香港・台湾から勝瑞城を目当てに来日する観光客もいたんだそう!
▲『続日本100名城』に制定されたお城に設置しているスタンプ。コロナ前には香港・台湾から勝瑞城を目当てに来日する観光客もいたんだそう!

そんな勝瑞城の御城印作りを企画したのは、「勝瑞城みらいへつなげ隊」の皆さん。
藍住町にある勝瑞城跡で「あいずみスマイリーマルシェ」を開催するなど、勝瑞城の魅力を発信している団体です。

 ※写真は2019年5月26日の様子です
※写真は2019年5月26日の様子です

団体の代表で、勝瑞城跡から西へ 500 メートルほどの場所にあるガソリンスタンド「武田石油」の武田康弘さんはこう話します。
「もともと、生まれも育ちも藍住なので勝瑞城のことは知っていましたが、興味を持ち始めたのは発掘調査がはじまってからです。ちょうど発掘のための重機にガソリンを入れるため城跡に出入りするようになって価値があるもんなんだとは感じていました。広さがあるので別の場所でしていたイベントをこの勝瑞城跡で開催するようになり、かつて阿波の政治と経済の中心地だった場所を知られていないのはもったいないと思ったのがきっかけです」。


2020年、藍住町役場との間で御城印を作る話が持ち上がりました。
「最初は三好の家紋を入れて印刷する案も出たんですけど、ほかのお城ともっと差別化したほうがいいなと思ったんです」。

そこでひらめいたのが、町の名前にも入っている“藍”。

「藍をモチーフに、天然のものでひとつずつ手作りした御城印なら…と思ったんです」。
従来の御城印とは違う、世界に一つだけの御城印作りがスタートしました。

作成にあたって、武田さんが声をかけたのは藍住町内にいる職人の皆さん。

吉野川市「アワガミファクトリー」から仕入れた阿波和紙を、美しい藍色に染め上げるのは「天然藍染工房こめたに」の藍染作家・米谷弘子さん。

 ▲結婚を機に藍住町で暮らすようになり、現在は町内に工房を構えて作品作りに打ち込んでいます。
▲結婚を機に藍住町で暮らすようになり、現在は町内に工房を構えて作品作りに打ち込んでいます。

「勝瑞城があることは知っていたんですが、歴史や文化背景などは恥ずかしながら知りませんでした」と米谷さん。

修行先で紙を藍で染める経験もあったことから「阿波和紙を藍染めしてほしい」という武田さんからの依頼も引き受けたんだそう。

「阿波和紙は繊細なので、藍や水につけておく時間が長すぎるとダメになるんです。でも回数が少ないとうまく染まらない。色が強く、文字が映えるように染めるように工夫しています」と米谷さん。

1枚ずつ手染めしているだけあって色合が微妙に違っているのもポイント。

「藍で染めた紙に文字は印刷ができない。だったら手書きでいこうと」。そう武田さんが白羽の矢をたて、依頼したのは町内の書道家・原葉香さん。

藍色の紙に映える金色の文字は、水彩画などに使われる顔料を使っています。

「顔料をたっぷりつけてゆっくり運筆していくのがポイントです」と原さん。

「三好家の家紋が末広がりであることと、勝瑞城を全国、世界に末広がりに広がってほしいという思いをこめて、縁起のよい末広がりになるように仕上げています」。

 ▲右が試作品。原さんの文字をハンコにして押すことも考えたそうですが、にじんでしまうことがわかり、原さんの手書きに落ち着いたんだそう。
▲右が試作品。原さんの文字をハンコにして押すことも考えたそうですが、にじんでしまうことがわかり、原さんの手書きに落ち着いたんだそう。

丁寧に書かれた文字に押すハンコは、町内の印章店「三美堂」の長谷川さんに依頼。
藍色の和紙、そして金色の文字に合わせて大きさやインクの色を試行錯誤して完成させたのだそうです。

 ▲全体を引き締めてくれる判。これで御城印の完成です。
▲全体を引き締めてくれる判。これで御城印の完成です。

染めの色、文字のニュアンスが少しずつ異なるのも手作りならではの味わいになっています。
藍住町の文化遺産を広めるために、藍住町の作家さんたちの手で作られたまさにメイド・イン・藍住町の御城印は5月に完成。

発売初日から驚きの反響を体験した武田さん。
「5月1日に日付が変わった瞬間にSNSに完成をアップしたんです。そうしたらその日の朝7時にうちの店に“御城印できたんですねー!”って車が入ってきたんです!なんでも御城印を集めている女性で、兵庫県から来てくれたんです」。

御城印ファンの若い女性、地域の人、たまたま見つけて「これ、いいなあ」と手にとる人。想像以上の人の目に、手に、御城印は渡っています。

 ▲左から藍染作家の米谷弘子さん、「武田石油」の武田康弘さん、書道家の原葉香さん。
▲左から藍染作家の米谷弘子さん、「武田石油」の武田康弘さん、書道家の原葉香さん。
 ▲勝瑞城で御城印を買って、そのまま勝瑞城に行って撮影する人が多いそう。
▲勝瑞城で御城印を買って、そのまま勝瑞城に行って撮影する人が多いそう。

「11月21日に勝瑞城跡でマルシェを開催する予定です。そこでも御城印を販売するんですが、なにか特別なものが提供できたらなと思っています」と武田さん。
米谷さんは「藍にまつわる町で、こんな風に世界が広がっていくことにワクワクしました。私自身も藍の発信の仕方、関わり方を学べてうれしく思っています」と笑う。

「これだけ素晴らしい史跡があって、文化を育む素晴らしい作家さんたちがいる。藍住町に住んでいることが誇りに思えるような活動になったと思います」と原さん。

藍住町の魅力が詰まった勝瑞城の御城印は1枚600円。「武田石油」で頒布しています。
この御城印を切り口に、徳島へ訪れる人も増えていくかもしれません。

有限会社武田石油
徳島県板野郡藍住町勝瑞西勝地88-1
TEL.088-641-0336
営/7:00~20:00(日曜、祝日は8:00~19:00)
休/第2・4日曜
P/あり
HP https://www.facebook.com/takedasekiyu