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雛人形を世界に発信する阿波勝浦・元祖「ビッグひな祭り」の歩み

雛人形を世界に発信する阿波勝浦・元祖「ビッグひな祭り」の歩み

徳島市から車で40分ほどの山あいにある勝浦町。阿波みかん発祥の地として発展し、毎年11月頃からは町内にたわわに実るみかん畑が見られます。この勝浦の春の風物詩といえば元祖「ビッグひな祭り」。約3万体の豪華絢爛に飾られた雛人形を見に、毎年約2万5千人もの人が訪れています。

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約3万体のお雛様がお出迎え

会場の『人形文化交流館』に入ると、たくさんのお雛様がお出迎えしてくれる元祖「ビッグひな祭り」。ここには、約3万体のお雛様が飾られています。2026年で第38回目を迎えます。

中でも目を引くのは、中央にある高さ約8mの「百段のひな壇」。

お雛様一つひとつ顔や装いが異なり、一つひとつをじっくり見入ってしまいます。豪華で華やかなものから、上品で落ち着いたものまで、それぞれの美しさが引き立っています。

女性の役人である三人官女、能楽を奏でる五人囃子や、お殿様を護衛する随身である右大臣と左大臣、そして御所の掃除などの雑用を担う仕丁もそれぞれ個性豊かです。

 上から三人官女、五人囃子、下段は手前が仕丁、奥が随身
上から三人官女、五人囃子、下段は手前が仕丁、奥が随身

「全国変わり雛」コーナーでは、全国各地の文化を感じられるお雛様が飾られています。

「百年びな」のコーナーには、明治時代から100年間のお雛様の変遷を展示しています。

勝浦町の一大イベントの仕掛け人「阿波井戸端塾」

元祖「ビッグひな祭り」を運営するのは、勝浦町を拠点に活動する「NPO法人阿波井戸端塾(以下、井戸端塾)」の皆さんです。

 井戸端塾の皆さん
井戸端塾の皆さん
 勝浦町で生まれ育った国清一治(くにきよ・いちじ)さん
勝浦町で生まれ育った国清一治(くにきよ・いちじ)さん

「ビッグひな祭り」の第1回目は昭和63(1988)年。きっかけは、勝浦町で起こったある事件でした。

勝浦では、大正時代からみかんが生産され、町の主要な産業の一つでした。ところが、昭和56(1981)年2月の大寒波で、みかん畑が冷害を受け、約6割のみかんの木が枯れてしまいました。国の激甚災害にも指定されたほど被害は大きく、町には重苦しい空気が漂っていたと言います。

「このまま何もしなければ、町が八方塞がりになってしまうと思い、なんとかできないかと考えていました。そこで、昭和60(1985)年に当時30代だった役場職員の有志10人が集まって立ち上げたのが町おこしの団体『ちえぶくろ』でした。何もせずにはいられなかったんです」。

そこから、全国に売り出せるような勝浦町の地域資源を掘り起こそうと、3年かけて勉強したちえぶくろのメンバー。しかし、勝浦唯一のものはなかなか見つかりませんでした。

「いろいろ思案しましたが、すでに他の地域でイベント化されていたり、勝浦町以外の四国の地域でも有名なものが多かったんです。それなら、新たに作ろうと決意しました。そこで注目したのがお雛様だったんです。子どもの日の鯉のぼりのイベントはすでに各地にありましたが、お雛様を主役にした催しは当時はまだどこにもなかったんです」

そこで、町の体育館を借りて初めて開催。100段のお雛様の展示から始まりました。

 会場の2階には、当時を再現した100段のお雛様が展示されている。過去のポスターやビッグひな祭りの歴史の紹介もある
会場の2階には、当時を再現した100段のお雛様が展示されている。過去のポスターやビッグひな祭りの歴史の紹介もある

「100段のお雛様を飾るには、最低でも1,000体は雛人形が必要ということになりましたが、どうやって実現するかは、頭にはありませんでした(笑)でも、とにかくやるしかないと、新聞や人づたいにお雛様を募集したんです。徳島市などの町外からたくさん電話がかかってきて、お雛様が集まってきました。当時は、お雛様は貸してもらう予定で、お戻し先を聞いていたところ、全員『返さなくていい』と言うんです。そこで、初めて、お雛様を持っている人が、困っていることに気がつきました」

子どもが小さいうちは毎年飾っていた雛人形も、子どもが巣立ってからも大事にとっておいたもののどうしたらいいかわからない家庭が多いことに気づいた国清さんたち。そこで、集めた雛人形の供養をすることにしました。

「子どもたちの健康を守ってきてくれたお雛様は、子どもたちに変わって、厄を身代わりになって受けてくれている。これは供養せなあかんと、今でも毎年供養して、お雛様への感謝を伝えています」。

 供養では、人形文化交流館内に祭壇が設けられる。井戸端塾のメンバーが玉串をささげ、お雛様への感謝と祭りの成功を祈る
供養では、人形文化交流館内に祭壇が設けられる。井戸端塾のメンバーが玉串をささげ、お雛様への感謝と祭りの成功を祈る
 供養を行う大宮八幡神社の宮本典之宮司
供養を行う大宮八幡神社の宮本典之宮司
 毎年1月に、供養する雛人形の受付が行われる。2026年は、450世帯から約1万5千体の雛人形や人形が集まった
毎年1月に、供養する雛人形の受付が行われる。2026年は、450世帯から約1万5千体の雛人形や人形が集まった
 小松島西高校勝浦校の1年生が、井戸端塾の皆さんの指導のもと飾り付けをしている様子。他にも地元の小学生も毎年飾りに訪れ、子どもたちがひな祭りの文化について学ぶ機会にもなっている
小松島西高校勝浦校の1年生が、井戸端塾の皆さんの指導のもと飾り付けをしている様子。他にも地元の小学生も毎年飾りに訪れ、子どもたちがひな祭りの文化について学ぶ機会にもなっている

新たなアイデアで人々を驚かせ続ける

新たなアイデアで人々を驚かせ続ける

ビッグひな祭りでは、毎年異なるテーマを企画しています。これまでも「お雛様に送る言葉」や、オリンピックや万博などのテーマに沿った展示が行われてきました。2026年は、会場内に大きな御殿飾りが登場。

「なぜ今年は御殿飾りなのか、これには勝浦町のみかんのドラマがあります。昭和30年ごろ、勝浦町のみかんの生産は最盛期を迎え、勝浦はとても裕福な地域になりました。その頃に、女の子が生まれた家庭に『御殿飾り』を送っていたそうです」。

 百段のひな壇の一番上に輝く御殿飾り。当初お雛様を集め始めた時に、このような御殿飾りが勝浦町の人からたくさん寄せられ、国清さんは驚いたという
百段のひな壇の一番上に輝く御殿飾り。当初お雛様を集め始めた時に、このような御殿飾りが勝浦町の人からたくさん寄せられ、国清さんは驚いたという

御殿飾りとは、京都御所を思わせる建物の中に、ひな人形を配置する飾りかたで、江戸時代後期から昭和にかけて主に関西で流行しました。徳島でも昭和30年ごろまで主流の雛飾りでした。

「裕福な家庭で購入された御殿飾りが、戦後まもない勝浦町でたくさん見られたことは、当時の繁栄をよく示していると思います。

そして、勝浦町は2025年で町政70周年を迎えました。かつての勝浦の復興を象徴する御殿飾りで、勝浦をもっと盛り上げたい。そんな気持ちで『令和ビッグ御殿』を企画しました」。

お雛様を世界へ

井戸端塾の初代代表であった殿川武男さんは「グローバルビッグひな祭り」と名付けました。国際感覚に長けた殿川さんは、世界を見ていたと国清さんは振り返ります。

実際に、ビッグひな祭りは世界にも展開されました。2016年のリオデジャネイロ五輪とパラリンピックの期間中、日本の情報拠点となるジャパンハウスでビッグひな祭りの展示を行いました。日本から3,000体の人形を船で運び、井戸端塾のメンバー3人で現地で飾りつけたと言います。

また、2026年からは会場に英語での案内板も設置され、より多くの人にひな祭りの歴史や文化が伝わる体勢が整っています。

今も年々進化を見せているビッグひな祭りから、これからも目が離せません!

合わせて楽しみたい徳島城博物館 春の企画展「ひな人形の世界」

合わせて楽しみたい徳島城博物館 春の企画展「ひな人形の世界」

ビッグひな祭りに合わせて徳島のひな祭りを楽しむなら、徳島市にある『徳島城博物館』へ。2001年から毎年春に雛人形の企画展が行われています。

こちらでは、子どもたちの身代わりとして枕元に置かれた「天児(あまがつ)」や、公家の子女が楽しんだ「ひいな遊び」に使われた人形の面影を宿す「立雛(たちびな)」など、雛人形のルーツにあたるものから、各時代の流行や地域性が反映されて変遷していった、さまざまな様式のひな人形が展示されています。

展示を通して、人々の間で雛人形がどのような存在とされ、どのように親しまれてきたのかを知ることができます。解説もわかりやすく、子どもと一緒に、後世に伝えていきたい日本の雛祭り文化に触れるのにもぴったりです。

 ひな人形は、時代によって頭の造形や表情、装束の作りが異なっており、各時代の流行が表れている
ひな人形は、時代によって頭の造形や表情、装束の作りが異なっており、各時代の流行が表れている
 徳島城博物館では市民から寄贈された大きな御殿飾りを間近で見ることができる
徳島城博物館では市民から寄贈された大きな御殿飾りを間近で見ることができる
 徳島では、旧暦の雛祭りの日や、その翌日の3月4日に、子どもたちは「遊山箱」と呼ばれる小さなお弁当箱を持って野山へ遊びに行く(遊山する)文化があった
徳島では、旧暦の雛祭りの日や、その翌日の3月4日に、子どもたちは「遊山箱」と呼ばれる小さなお弁当箱を持って野山へ遊びに行く(遊山する)文化があった

2026年は、ビッグひな祭りとコラボとして、入場料・入館料の割引特典もつきます。ぜひ、両方回って、今と昔のお雛様を見比べてみてください。

第38回阿波勝浦・元祖「ビッグひな祭り」

第38回阿波勝浦・元祖「ビッグひな祭り」

勝浦郡勝浦町生名月ノ瀬35-1(人形文化交流館)
Tel:0885-42-4334(ビッグひな祭り実行委員会)
期間:2026年2月21日(土)〜4月5日(日)
開館時間:9:00〜16:00
入場料:大人400円、小人100円、団体(10名以上)300円
主催:ビッグひな祭り実行委員会/NPO法人阿波勝浦井戸端塾
ウェブサイト:https://bighinamaturi.jp/

徳島城博物館 令和7年度春の企画展「ひな人形の世界」

徳島城博物館 令和7年度春の企画展「ひな人形の世界」

徳島市徳島町城内1-8
Tel:088-656-2525
期間:2026年1月31日(土)〜4月5日(日)
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
入館料:大人300円、高校・大学生200円、中学生以下無料 ※20名以上の団体は2割引
ウェブサイト:https://www.city.tokushima.tokushima.jp/johaku/

【割引特典】
ビッグひな祭りのチケット半券を徳島城博物館の受付で提示すると「ひな人形の世界」展の入館料が2割引、「ビッグひな祭り」の受付に徳島城博物館のチケット半券を提示すると「ビッグひな祭り」一般の入場料400円が300円となります。
※2025年度の「ひな人形の世界」「ビッグひな祭り」会期中限定の特典です。