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この「人」に、会いに行こう!in 上勝 vol.7 溜本弘樹さん

この「人」に、会いに行こう!in 上勝 vol.7 溜本弘樹さん

日本で自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を2003年に行った徳島県・上勝町。
生ゴミなどは各家庭でコンポストを利用。その他のゴミは住民自ら町内のゼロ・ウェイストセンターに持ち込んで45分別することで、リサイクル率は80%を超えており、住民主導のサステナブルな取り組みが国内外から注目されています。

でも、上勝町は決してゼロ・ウェイスト「だけ」の町ではありません。町の自然や文化を存分に感じ、楽しむことができる場所や体験、ツアーなどが多く存在しています。そこで鍵になるのは上勝の「人」。上勝の活力となり、地域を動かす人たちを紹介します。

文・板東悠希(ガイド/全国通訳案内士)


Vol.7で紹介するのは、上勝町でさまざまな事業に携わる溜本弘樹さん。かつての小学校跡を活用した宿『自然の宿あさひ 山の楽校』のほか、上勝町八重地集落の茅葺き古民家『花野邸』を中心に活動する『かみかつ茅葺き学校』の運営も務める。今回は八重地『花野邸』での活動を中心に話を聞いた。

「この花野邸がある八重地集落は、上勝町の一番奥に位置する集落です。現在ある世帯は17軒。高齢化率は約80%まで進んでいるのですが、この花野邸は八重地に住むおじいちゃん、通称『やえじい』たちが自分たちの手で屋根を葺きました。この古い民家を拠点に『いずれこの集落は無くなるかもしれない。だけど今なら、まだ若い子たちに自分たちの技や知識を伝えられる』と始めたのが、かみかつ茅葺き学校なんです」

上勝内でのさまざまな事業に携わる溜本さん。特に、今回メインで紹介する『かみかつ茅葺き学校』の代表として、立派な茅葺き屋根を持つ『花野邸』の維持と運営に日々奔走している。

『にほんの里100選』にも選ばれている八重地の集落。その美しい棚田の景色を一望できる場所に建つ花野邸は貸し切りでの利用のほか、薪を使ったかまどでご飯を炊いたり、アメゴを釣って塩焼きにしたり、石臼でコーヒー豆を挽いて囲炉裏端で楽しんだり…とさまざまな体験を行うことができる。敷地内でキャンプをして満点の星空と美しい夜明けを体感することも可能だ(現在、簡易宿泊の認可も目指している)。2023年にはドラム缶で作った五右衛門風呂も完成して、昔ながらのお風呂に入る体験もできるように。このお風呂を造る作業を一手に担ったのも溜本さん。

もともと溜本さんは出身が上勝なのかと思いきや、上勝に住み始めたのは2009年。もう15年が過ぎようとしているが、徳島との縁はそれよりもさかのぼること15年以上。兵庫県姫路市から大学進学で徳島にやってきたのがご縁のはじまり。しかし、7年を徳島大学で過ごして大学院を卒業したのち、就職先となったのは大阪の会社だった。

「大学院卒業後、土木系のコンサル会社で勤めることになりました。いろいろな公共事業などに携わりながら9年ほどその会社で勤務しましたが、オーバーワークで疲れてしまって…。そのときに思い出したのが徳島のことでした」

大学時代に住んだ徳島は、離れた後も自身のお気に入りの場所になっていた。また、大阪勤務時代につながりのあった先輩が上勝にゆかりがあったこともあり、上勝に移住を決める。

「上勝に移住してからまず始めたのは観光に携わる仕事でした。地域活性のために…といろいろと動いていましたね」

国内旅行業務取扱管理者や、旅程管理主任者(いわゆる『添乗員』の資格)などを取り、旅行会社をスタート。2012年ごろに上勝で初めて修学旅行生の受け入れをしたのも溜本さんだった。約2年の準備期間を経て、30軒の世帯との農泊受け入れ交渉のほか、さまざまな手配を行い1グループ150人ぐらいの大所帯を上勝に迎えたのだそう。

その後も旅行業の枠にとどまらず、上勝のおいしいお土産『ゆこうチーズ』*1の製造・販売を手掛けたり、昔の小学校校舎を利用した『自然の宿あさひ 山の楽校(がっこう)』の運営も行ったりしている溜本さん。
それに加えて『かみかつ茅葺き学校』の代表も2022年から務めることになった。

「『かみかつ茅葺き学校』が花野邸の再生をスタートして、初めての茅葺きを行ったのが2012年ですが、当初からずっと僕は活動に携わってきました。屋根の葺き替えだけでなく、水道のメンテナンスや障子の張替え、田んぼや畑仕事もやってきていたので…。茅葺き学校の運営を引き受けるのは自然というか必然だったのかもしれません。この八重地の集落を維持したいという想いをベースに、これからも様々な活動を行っていきたいですね」

『かみかつ茅葺き学校』では先に挙げた滞在型の体験だけでなく、さまざまな取り組みを行っている。茅葺き屋根のために行う冬場の茅刈りは毎年継続的に行っているのはもちろん、八重地の田んぼを活かした活動がいくつかスタートしている。

一つは八重地の棚田を活用した『田んぼ応援隊』を町内外から募って、自分たちの手で「田んぼをつくる」活動。苗の手配から収穫まで各自のやり方は自由で、自分でつくったお米を収穫することができる。もう一つは2023年度から新たに始めた『百姓の日』。毎月第1木曜日と第4土曜日に開催され、9~15時の間に、興味がある人なら誰でも参加できる。茅葺き学校での日々の仕事である「百姓仕事」を気軽に体験できる新たな活動だ。

「花野邸をベースに、田んぼはもちろん、いろんな交流ができる八重地にしていきたいです」と溜本さん。八重地の美しい風景と溜本さんにぜひ出会ってほしい。

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かみかつ茅葺き学校
徳島県勝浦郡上勝町旭字八重地18-49
https://kayabukischool.localinfo.jp/

*1『ゆこうチーズ』は、上勝町の特産で“幻の柑橘”ともいわれる『ゆこう』を使ったスティックタイプのチーズケーキ。ゆこうは柚子とダイダイが自然交雑して生まれたと言われており、さわやかな香りを持ちながらも、まろやかな酸味が特徴。ゆこうチーズはクリームチーズに白あんをミックスしたユニークな組み合わせながら大変美味。クッキー生地のサクサク食感もよいアクセント。上勝町内の『月ヶ谷温泉』や『いっきゅう茶屋』のほか、『徳島阿波おどり空港』(松茂町)や『阿波おどり会館』(徳島市)などで販売されている。