特集

水都とくしま母娘旅
クルーズ船で人形浄瑠璃と藍染を巡る旅

徳島といえば「阿波おどり」。
6年前、徳島に移住した時の僕は、そのくらいの認識しかありませんでした。確かに本場の阿波おどりの熱気と迫力には驚きました。徳島に来るなら、ぜひ一度は体験してもらいたいものです。

阿波おどりが徳島の『動』の伝統文化だとすれば、人形浄瑠璃と藍染は『静』の伝統文化です。

性格が天邪鬼な僕は、メジャーで人気のある阿波おどりよりも、一見地味でわかりにくい人形浄瑠璃と藍染に興味を持ちました。そして、映像制作の仕事を通して様々な人と出会い、関わる人々の熱狂を知りました。藍染や人形浄瑠璃という『静』の文化に注がれる人々の熱量は、『動』の阿波おどりにも負けないものがあります。僕はいつしかその虜になっていました。

今回僕が紹介したいのは、徳島の『静』の伝統文化、人形浄瑠璃と藍染です。知れば知るほど奥が深い世界なので全てをお伝えすることはできません。でも、たった半日でその魅力に触れ、実際に体験までできるツアーがあるんです。

それが「徳島じょうるりクルーズ」。船に乗って徳島の自然と伝統文化を巡る旅です。
この旅をきっかけに、徳島の藍染と人形浄瑠璃に少しでも興味を持ってもらえたらと思います。

文・川口泰吾(映像クリエイター)

アクティビティ 観光スポット 伝統・文化 自然


川から眺める町は発見の連続
徳島じょうるりクルーズ

川から眺める町は発見の連続
徳島じょうるりクルーズ 左:豊澤町若(とよざわ まちわか)さん 右:竹本友和嘉(たけもと ともわか)さん
左:豊澤町若(とよざわ まちわか)さん 右:竹本友和嘉(たけもと ともわか)さん

旅のお供は、こちらのお二人。
竹本友和嘉(たけもと ともわか)さんと豊澤町若(とよざわ まちわか)さん親子です。
友和嘉さんは人形浄瑠璃の太夫(浄瑠璃語り)として14歳から舞台に立っている第一人者。娘さんの町若さんも人形浄瑠璃の三味線奏者として活躍している人です。

いつも取材を通してお世話になっているお二人に「人形浄瑠璃に関わるプロとして」「徳島県民として」、このツアーをどのように感じるか聞いてみたいと思ってお願いしました。

舞台に立たれているときの厳しい表情とは打って変わって、なごやかな雰囲気のお二人。生粋の徳島県民ながら、クルーズも藍染めも初めて!というお二人は、今回の旅を通してどんな発見をするでしょうか?

 この看板が目印! 新町川水際公園ボートハウス前(両国橋のたもと)のクルーズ出発口
この看板が目印! 新町川水際公園ボートハウス前(両国橋のたもと)のクルーズ出発口

旅の始まりは新町川水際公園の船着場。徳島市内から船に乗って、人形浄瑠璃の公演が行われている阿波十郎兵衛屋敷を目指します。

 周遊中は、釣り船やSUP(スタンドアップパドル) 乗りなどに遭遇する
周遊中は、釣り船やSUP(スタンドアップパドル) 乗りなどに遭遇する

船が出航する新町川は徳島の中心を東西に流れる街のシンボルです。川岸には公園やボードウォークがあり、市民の憩いの場として親しまれています。徳島城からも近いこの川は、江戸時代には徳島藩の経済を支えた阿波藍を乗せた船が行き交い、とてもにぎわっていたそうです。

「見慣れた徳島の街並みや眉山がとても新鮮。川がキレイで感動した!」とお二人。

 この日の船長は「新町川を守る会」の会長 中村英雄さん
この日の船長は「新町川を守る会」の会長 中村英雄さん

今では魚の姿も見える美しい新町川ですが、30年ほど前までは、ゴミにまみれ、悪臭を放つ川だったそうです。1990年、汚れきった川をなんとかしようと清掃活動を始めたのが、中村英雄さんを中心とする「新町川を守る会」のメンバーでした。毎月船を出して川のゴミを拾い続け、4年後には遊覧船によるクルーズを始めました。

中村さん「ほんまにこの川はきれいになった」

この日、船長を務めてくれた中村さんは、船を走らせながら何度もつぶやいていました。
この街や川を愛し、とても大事にしているんだなという想いが伝わってきます。そんな想いを胸に街を眺めると、この風景がとてもかけがえのないものに感じられました。

友和嘉さん「阿波おどりのときは、橋もあふれんばかりに人が大勢おるよなあ」
町若さん「普段は見れない低い位置から見る眉山はおっきく見えるわね」

風を感じながら川から眺める景色は、地元の人にとっても新しい気づきがあるようです。

 橋すれすれを通過するスリルも楽しみのひとつ
橋すれすれを通過するスリルも楽しみのひとつ

ちなみにこのクルーズ、何度か橋の下を通過するんですが、川の水量によっては橋にぶつかりそうなくらいぎりぎりを通過するのでスリル満点。
中村船長は「いけるいける」と平気な顔ですが、初めての人は冷や汗ものです。

徳島市の中心部は新町川と助任川(すけとうがわ)に囲まれ、上空から見るとひょうたんのような形をしています。この市内を一周する『ひょうたん島クルーズ』は原則毎日運行しています。料金は大人300円、子供150円(安い!)。1周30分の船旅で水都とくしまの魅力を堪能できるのでオススメです。

でも、今回の『徳島じょうるりクルーズ』はまだ終わりません。水路を抜けて大河 吉野川へ。

 水路を抜けて吉野川に出ると一気に視界が広がる
水路を抜けて吉野川に出ると一気に視界が広がる

「おおっー!」と、お二人の口からおもわず大きな声が出ました。
川から見上げる巨大な「しらさぎ大橋」。海の香りが漂う風。地上からは感じられない吉野川の雄大さを体感できます。お二人はしばらく感動した様子で川を眺めていました。

かつては日本の三大暴れ川と呼ばれ、毎年のように氾濫を繰り返していた吉野川。川はその見返りに肥沃な土を運び、徳島は藍の一大産地になりました。かつてこの地で育てられた藍は全国各地に出荷され、莫大な富を生み出したのです。

江戸時代、徳島藩主や藍商人は豊富な資金で淡路の人形座を呼び、興業を行いました。やがて、その文化は県南の山間部にまで広がっていったのです。そこでは村人たちが、神社の境内に舞台を建て、自ら人形座をつくりました。こうして地域に根付いた伝統文化として発展したのが、徳島の人形浄瑠璃なのです。

徳島の伝統芸能 阿波人形浄瑠璃
阿波十郎兵衛屋敷

徳島の伝統芸能 阿波人形浄瑠璃
阿波十郎兵衛屋敷 「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」の一幕 お弓(右)とお鶴(左) 母子の再会
「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」の一幕 お弓(右)とお鶴(左) 母子の再会

クルーズ船を降りて、やってきたのは『阿波十郎兵衛屋敷』。ここでは徳島の伝統芸能である人形浄瑠璃の公演が毎日行われています。演目は「傾城阿波の鳴門(けいせいあわのなると)」。

幼い頃に離れ離れになった両親を探しに、巡礼者として大阪にやってきたお弓。
お弓は無事に母・お鶴と巡り会う。
しかし、お鶴には自分が母親だと名乗ることはできない事情があった。
運命のいたずらに翻弄される親子。
一人寂しく町をさまようお弓は、父・十郎兵衛と出会うのだが…。
そして物語は衝撃の結末を迎える。

まるでシェイクスピアの悲劇のような物語。
そして、この阿波十郎兵衛屋敷は、物語のモデルとなった坂東十郎兵衛の屋敷跡なのです。

 母と娘の再会の場面は涙を誘う名シーン
母と娘の再会の場面は涙を誘う名シーン

三味線の伴奏に、太夫(たゆう)が物語りを語る「浄瑠璃」。それに人形芝居が加わって生まれたのが人形浄瑠璃です。義太夫節(ぎだゆうぶし)を確立した竹本義太夫や『曾根崎心中』の作者、近松門左衛門らの活躍で、江戸時代中期には歌舞伎をしのぐほどの人気だったそうです。

徳島県内の神社には、人形浄瑠璃が行われていた農村舞台がたくさん残っています。山深い農村では、村人たちが人形座(人形芝居の一座)を作り、祭りで奉納していました。その伝統は受け継がれ、今でもたくさんの人形座が活動を続けています。阿波おどりで有名な徳島ですが、実は全国有数の「人形浄瑠璃の国」でもあるのです。

阿波十郎兵衛屋敷の公演は、県内各地の人形座が日替わりで行っています。人形や衣裳にも各座特長があり、人形の遣い手によってもおもむきが変わるので、知れば知るほど奥の深さを感じます。土日祝日は人形座に太夫、三味線も加わり「三業一体(さんぎょういったい)」と言われる人形浄瑠璃の真髄を味わうことができます。日頃の鍛錬を舞台の上でぶつけ合い、3者の息がぴたりと合って生まれる物語。

人形浄瑠璃にかける徳島の人々の「熱狂」をぜひ体感してみてください。

 この日の人形座は「寄井座」。終演後は写真撮影ができる
この日の人形座は「寄井座」。終演後は写真撮影ができる

いつも自分たちが立っている舞台を観客として観た友和嘉さんと町若さん。

人形浄瑠璃はメジャーではありませんが、徳島の人々が守り続けてきた伝統芸能。
お二人は「もっと関心を持ってもらえるよう、努力が必要やな」と決意を新たにした様子でした。


 「徳島じょうるりクルーズ」のお弁当。徳島の食材がギッシリ
「徳島じょうるりクルーズ」のお弁当。徳島の食材がギッシリ

人形浄瑠璃の公演を見たらランチタイム。
案内されたのは、坂東十郎兵衛が住んでいた当時から残る日本庭園「鶴亀の庭」が見える部屋。
お弁当箱に詰められたランチには、鳴門金時、レンコン、竹ちくわ、金時豆、梅などなど...徳島産の食材がこれでもかと詰まっています。

友和嘉さん「阿波番茶もついて、ボリュームたっぷり。これお金大丈夫で?(笑)」
とお弁当の価格を気にするほどの豪華弁当でした。

気軽に伝統の藍染体験を
藍染工房ルアフ

今度はバスに乗り込んで藍染体験に向かいます。
車窓には徳島特産の鳴門金時やレンコン畑が広がります。

友和嘉さん「普段通らない道を行くのも、いろんな景色が見れてええなぁ」

マイカー移動が多い徳島のみなさん。友和嘉さんもバスはほとんど利用しないそうです。でも、今回の旅をきっかけにバスに乗ることも増えたとか。

バスは吉野川を橋で渡り、目的地の藍染工房へ。

 本格的な藍染体験ができる「ルアフ」
本格的な藍染体験ができる「ルアフ」

徳島市内にある藍染工房ルアフ。おしゃれな空間で気軽に藍染体験ができると人気のスポットです。でも、藍染の技術は本格的。県内で育てられた藍を約100〜120日間発酵させた「すくも」と木灰から取った灰汁(アク)で染め上げる日本古来の技法です。

徳島で生まれ育った友和嘉さんも町若さんも藍染体験は初めて。藍のにおいや藍の液からぶくぶくと発生する泡に興味津々です。スタッフに教えてもらいながら真剣な表情で作業を続けます。

 板に挟んだ部分が白く残る「板締め」
板に挟んだ部分が白く残る「板締め」

今回お二人が挑戦したのは「板締め」という技法。板で挟んだ部分が白く残って直線的な幾何学模様が生まれます。

でも、出来上がるまではどんな模様になるかわかりません。
染め上げたバンダナを開いて見ると、

 完成した藍染めのバンダナ
完成した藍染めのバンダナ

とても素敵な模様が出来ていました。
友和嘉さんは娘の町若さんのバンダナを見て、

「悔しいわあ」と一言。

どうやら結構対抗心を燃やしていたようです。

旅の終わりにお二人に感想を聞きました。

町若さん「今回は徳島再発見の旅になりました」
友和嘉さん「県外の方々ももちろんだけど、県内のひとたちにも体験してもらいたいですね」

徳島に移住して6年、僕にとっても新しい発見がいろいろありました。
気軽に参加できる「徳島じょうるりクルーズ」は、半日で徳島の伝統を体験できるオススメのツアーです。お昼ご飯もついて参加費はなんと4000円。4月から10月までの毎週日曜日にやっています。

ひょうたん島クルーズや人形浄瑠璃の公演、藍染体験などは年中楽しめますので、機会があればぜひ訪れてみてください。『静』の伝統文化と向き合う人々の熱狂を知れば、もっと徳島が好きになるはずです。

Information

『徳島じょうるりクルーズ』
吉野川を横断!阿波人形浄瑠璃鑑賞+藍染体験+徳島の食材を使ったお弁当付きの旅ツアー
実施日:平成31年4月~10月の毎週日曜日(4日前までに要予約)
実施スケジュール:
  9:50 新町川水際公園・周遊船乗り場へ集合
 10:00 クルーズ出航、阿波十郎兵衛屋敷に到着後、人形浄瑠璃解説&鑑賞、昼食
 12:22 路線バスで藍染体験会場へ移動。れんこん畑などの中を通っていきます
 13:00 藍染体験(藍染工房ルアフ)
 14:00 解散
参加費/ひとり:一般、4,000円 小学生以下3,200円
(クルーズ乗船料、昼食代、藍染体験料、バス代、保険料含む)
定員:1艘13名(最大4艘)
最少催行人員: 1名
※クルーズは潮位によって運行できないことがあります
【お問い合わせ】
阿波十郎兵衛屋敷
徳島市川内町宮島本浦184
TEL:088-665-2202(毎日9:30~17:00)
http://joruri.info/jurobe/
【旅行企画・実施】
(一社) ツーリズム徳島 徳島県知事登録旅行業 第3-162号 (一社) 全国旅行業協会正会員

『ひょうたん島クルーズ』
※ひょうたん島クルーズは、徳島市中心部の川を周遊するクルーズです。
吉野川を横断しませんのでご注意ください。
営業時間:
(通年)11:00から40分毎 最終便15:40
(7・8月)11:00から40分毎 最終便19:40
(8/12~15)9:00~22:00(15分毎に出航)
料金:
両国橋の桟橋からひょうたん島1周は、大人 300円、小人 150円。
イオンモールの桟橋からひょうたん島1周は、大人 500円、小人 250円
※2019年4月1日より料金改定
【お問い合わせ】
徳島市新町川水際公園・周遊船乗り場
TEL:090-3783-2084(新町川を守る会)
http://www2.tcn.ne.jp/~nposhinmachigawa/access.html

『阿波人形浄瑠璃の定期上演』
(通年)11:00、14:00 の 1日2回
(8月11日~16日)10:00、11:30、13:30、15:00 の 1日4回
【お問い合わせ】
阿波十郎兵衛屋敷
徳島市川内町宮島本浦184
TEL:088-665-2202

http://joruri.info/jurobe/
営業時間:9:30~17:00(7月1日~8月1日は18:00まで)

『ハンカチ、スカーフなどの藍染体験』
※要予約、材料の持込み可
【お問い合わせ】
藍染工房ルアフ
徳島市吉野本町6-42
TEL:088-626-0536
http://www.indigo-dyeing.sakura.ne.jp
営業時間:9:00~17:00

水都とくしま母娘旅 
クルーズ船で人形浄瑠璃と藍染を巡る旅 記者

Text 川口泰吾
静岡県出身。1977年生まれ。東京のCM制作会社で
TV-CMを中心とした制作業務を担当。その後、
映像ディレクターとして映像制作業務に携わる。
2012年、徳島県神山町に移住。2015年6月、川口映像事務所設立。